XRISM衛星搭載防振ダンパーの開発
お知らせ
2024年3月4日付けで、JAXA殿から公開されたプレスリリースです。
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概要
- 打ち上げ日:2023年9月7日
- 打ち上げ機:H-IIAロケット47号機
- ミッション:天体のX線分光撮像
- 開発箇所:冷凍機の制振装置(防振ダンパー)、サーマルストラップ、ローンチロック
開発内容
X線分光撮像衛星XRISMには、軟X線分光装置Resolveと呼ばれる観測装置が搭載されています。
この装置は、天体からやってくるX線のエネルギー(波長)をこれまでにない精度で測定する分光装置です。
Resolveは、ノイズの影響を限りなく低減させるために、-273.1℃というほぼ絶対零度に近い温度まで装置の受光素子を冷却し、観測を行います。
そのため複数の機械式冷凍機を搭載していますが、そのうちの1つにスターリング冷凍機があります。
スターリング冷凍機は、ガスの圧縮と膨張を繰り返して冷却する仕組みのため、擾乱(微小振動)が発生します。
その擾乱による振動が、-273.1℃の受光素子の温度をわずか(数マイクロ℃:マイクロは百万分の一のこと)に揺らがせることで、分光性能が劣化します。
そこでウェルリサーチでは、スターリング冷凍機で発生した擾乱を減衰させて、受光素子が感じるノイズを低減するための防振ダンパーを開発しました。
本防振ダンパーは、世界初の宇宙用全金属ダンパーであり、アウトガスの発生がないため、XRISMのような光学機器が搭載された繊細な観測装置に最適です。
この防振ダンパーはすでに製品として販売しており、詳細を防振ダンパー製品情報に記載しております。
実際にXRISMによる天体観測が行われ、冷凍機から発生する擾乱が防振ダンパーの効果で低減され、目標とする分光性能が得られることが実証されました。
弊社のXRISM分光性能への貢献について、JAXA殿から感謝状をいただきました。
上記の防振ダンパーのほかに、ローンチロックとサーマルストラップの開発も実施しました。
ローンチロックは、ロケットの打ち上げ時に、ロケット由来の振動が防振ダンパーを介して冷凍機に伝わり、故障しないようにするために、打上が完了するまでしっかりと固定するための機構です。
ローンチロックの機構には、弊社が代理店となっているEBAD社のTiNi™ Pin Pullerを使用しています。
今回使用した製品は遠隔でリセット可能なものであるため、必要に応じて一時的にローンチロックを解除して、打上前の観測装置の性能評価を実施できるような設計としました。
サーマルストラップは、冷凍機で発生する熱を衛星構体に逃がすための熱パスで、冷凍機が振動することを考慮してフレキシブル性を持たせています。
サーマルストラップは、熱設計に記載のように、製品として販売しています。
XRISMの活躍により、たくさんの科学的な成果が得られることを願っています。